「食べること」の障害に対しての治療・業務
「食べること」の
障害への治療・業務
言語聴覚士の専門性といえば、その名称から「ことば」や「聴覚」をイメージされやすいのではないでしょうか。しかし、近年、その活躍の幅が広がっているのが「食べること」の障害の分野です。「食べること」は、生命を支えるだけではなく、味わいを楽しんだり、誰かと過ごす時間を楽しむこといった余暇にも繋がります。言語聴覚士は幅広い年代の「食べること」の障害に対して関わっているのです。
もくじ
「食べること」の障害とは
言語聴覚士が対象とする食べることの障害は、専門的に言うと「摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)」と言います。
普段何気なく行っている「食べること」の流れを分解して見てみましょう。まず、食べ物を確認して口に食べ物を取り込みます。そして、よくかみ砕いて、唾液と一緒に飲み込みやすい形にまとめていきます。この過程を咀嚼といいます。ある程度飲み込みやすく準備ができたら喉の奥に送り、ゴックンと飲み込み胃に送ります。この一連の流れのどこかが滞って、安全に食べられなくなった状態を「摂食嚥下障害」と言います。
摂食嚥下機能には、頬や唇、舌といった口腔器官だけではなく、喉の奥にある喉頭蓋(こうとうがい)という「ふた」を調整する力が非常に大事です。人間は呼吸のための空気も、食べ物も共通した道を通りますが、途中で気管と食道の2つに分かれます。このとき、気管に食べ物が入らないようにしているのが喉頭蓋です。喉頭蓋がタイミングよく、しっかりと閉じないと、食べ物や口の中の細菌が肺に流れ込んでしまい、窒息や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こすことがあります。摂食嚥下障害は命にもかかわります。
「食べること」の障害の原因
食べることの障害の原因としては、まず脳や神経の病気が挙げられます。生まれつきのこともあれば、人生の途中で急に発症する脳梗塞や脳出血といった脳血管疾患もあります。他にも、重症筋無力症やパーキンソン病といった筋肉や神経の病気によって、徐々に機能が衰えていくことでも生じます。また、悪性腫瘍やケガなどで摂食嚥下機能に関わる器官のどこかに障害が起こることもあります。
摂食嚥下障害は以上のような病気になることで発症するだけではありません。高齢になると身体機能が徐々に衰えるものですが、それに伴って食べる機能も徐々に低下してきます。誰しもが、いずれは摂食嚥下障害になる可能性があります。
「食べること」の障害の治療
言語聴覚士は医師の依頼のもとで、摂食嚥下障害の患者さんに関わります。摂食嚥下機能について検査や観察を通して分析を行い、必要なプログラムを組み立てます。機能回復のためのトレーニングだけではなく、安全に食べられる食物の形を検討したり、食べ方のスピードや一口量などを調整したりすることも方法となります。ただし、摂食嚥下障害のリハビリテーションは、言語聴覚士だけが行うものではありません。医師はもちろん、看護師や、栄養士、診療放射線技師、理学療法士や作業療法士など他職種との連携は欠かせません。また、患者の状態によっては、機能を維持することも目標になりえます。家族のほか、介護士やヘルパーといった、在宅での生活に関わる人への情報提供も役割のひとつです。

